ドイツのファームステイでライフワークを見つけた現役大学生の話。

大学に休学届を出し、自分でコーディネートした農業旅をご紹介

6/30 バッグの中のパスポート

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バッグの中のパスポート

ふくろう農場に来て3日目、

農作業が始まって2日目。

驚くべきことに、当時の日記には

「朝…何したっけ…既に忘れてる…笑

 仕事終わってからは――」

と早速のさぼり癖が出ちゃっていました。

 

きっとこの日に印象深かったのは

作業よりもアフター5(4?)

だったのでしょうね。

ということでその話を。

 

ふくろう農場は

ドイツとスイスの国境近くに位置し、

自転車を3分ほど走らせると

ライン川に出ます。

川のこちら側はドイツ、

向こう側はスイス。

 

「今日は仕事終わりにライン側に行こう。

 こんなに暑いもん。水浴びしよう!」

誰かの掛け声で

仕事終わりの予定が決まりました。

「いいね!」

わたしも初めてのお出かけに胸が高鳴ります。

 

午後の作業を終えて、

洋服のしたに水着を仕込んでいると

「ito~はやく~。

 国境越えんだから

 パスポートも忘れんなよ!」

と階下からニアの声が。

 

バッグに素直にパスポートと貴重品を入れ

「お待たせ!」と自転車に跨ります。

 

家を出て駅と反対の方向へと進むと

程なく大きな川が姿を現しました。

手前の岸辺は砂利、

対岸は小さな砂浜があります。

左手に見える橋の両側には

それぞれに簡素な駐在所らしきものがあり

橋の上流側には

コンクリートでできた巨大な仕切りが

ダムのように水量を調節していました。

 

一同は、ドイツ国旗の標識を横切り

橋の入り口へと差し掛かります。

 

パスポート、出すのかな…?

 

おそるおそる駐在所を覗くと

そこには誰もいません。

 

あれ?

 

どきどきしながら橋を渡り

反対側の駐在所を覗きます。

やはり誰もいません。

 

なんだ、いらないんじゃん。

 

途端に、

律儀にバッグに収まるパスポートの存在が

恥ずかしくなったわたしは

まわりにバッグの中身を気付かれないよう

そしらぬ顔で砂浜に降り立ったのでした。

 

 

 

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6/29 なぞのディナーパーティーへ2

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なぞのディナーパーティーへ2

手入れの行き届いた芝生が続く

小高い丘の上にそのレストランはありました。

 

大きくはないものの、

普段はちょっとした宿泊施設も兼ねているのだとか。

 

「やあ~やあ、おまたせ。

 オイレンホフ一行の到着だよ。」

顔なじみらしい支配人らしき人に挨拶をすると

マルクスは予約席と書かれたテーブルへと

歩いていきました。

 

ウリやミヒャエル、

雇われ社員のアンドレアにリディア、

と一向はぞろぞろと後に続きます。

わたしはソフィアの後ろにつき、

その流れで着席したので

彼女の隣に腰を下ろしました。

 

各々が飲み物をオーダーし

さっそく前菜が運ばれてきました。

 

目を見張る美味しさだったのが

カレー風味のクリームチーズです。

何枚ものバケットに塗って食べました。

 

メインは

モッツァレラを忍ばせたポテトガレットに

トマトとバジルソースを添えたもの。

ベジタリアン仕様よ。

 そしてうちの野菜が使われているの♪」

アルコールが入っているからか

いつもより陽気に、そして誇らしげに

ウリが説明してくれます。

 

「…で、日本だとどうなんだ?」

ふいに遠くの喧騒に混ざっていた

マルクスの声がこちらを向き

わたしに問いかけます。

質問は宗教についてでした。

 

あまり詳しくなかったわたしは

「日本には多くの神様がいるの。

 信じたり信じなかったり

 人のスタンスもわりと自由だと思う。」

と、曖昧に答えることしかできず

ふと

「海外行くなら日本の勉強しときなよ~」

という友人の声がよみがえりました。

 

 

隣に座ったソフィアとは

片言のドイツ語ながらも

・ここでの生活はもうすぐ1年になること

・ここを出たら獣医の道に進みたいこと

・動物を殺すことに反対だから

 ベジタリアンであること

を教えてもらいました。

 

 

デザートには

ルバーブを甘く煮たものと

さっぱりとした柑橘風味のソルべ、

大胆で贅沢な量のティラミスが

細長い器にお行儀よく並べられ

出てきました。

 

 

・・・

 

「ほんと~~~~~~に

 おいしかったね!!」

お店を出ると一向はしばらく

みんなで過ごした素敵な時間について

感想を述べ合い、

やがてもと来たメンバーに分かれて

車に乗り込みました。

 

日本の宗教かあ…

やっぱちょっと勉強しよう…

 

頬杖をつき、ぼんやりと

流れていく夜の町並みを目で追いながら

そんなことを思う帰路なのでした。

 

 

 

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6/29 なぞのディナーパーティーへ1

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なぞのディナーパーティーへ1

「ito~。支度できた?」

1日の作業が終わり、

シャワーを浴びてさっぱりしたわたしが

農場のパンフレットの翻訳を進めていると

リディアがリビングに顔を出しました。

 

「うん、今日はディナーなんだよね!」

お財布を持ち、席を立ちます。

 

外に出ると車が2台停まっていました。

 

よかった、ナンバープレートがついてる…

 

ひとつはマルクスとウリの自家用車、

もうひとつは出荷などに使う営業車です。

 

「さーあ、乗った乗った!」

マルクスが運転席の前に立ち

腰に手を当ててメンバーに召集をかけていました。

 

少しかしこまったドレスを身にまとい

いつもとは違う香りを漂わせる

アドリアーナの隣に乗り込もうとすると

「はい乗った乗った!」

とダテ眼鏡をかけたニアが

後ろからわたしを急かし、隣に座りました。

シャツを着たルーカスは運転、

助手席には

シックなタンクトップ姿のソフィアがいます。

 

わたしはというと

こっちのH&Mで手に入れた灰色の無地のTシャツに

昔から気に入って着ている紺のロングスカート。

 

あれ、けっこうお堅いごはん会なのかな?

ドレスコードとか大丈夫?

 

わたしの不安をよそに

「レッツゴー!」

と、嬉々としたニアの叫び声を合図に

車は進み始めました。

 

「くっそ腹減ったよまったく…」

「どんな料理なんだろうね!」

「てかこれなんのお祝いなの?」

「実際のところ…知らねえな。」

 

ウーファーメンバーのそわそわした様子に

わたしの口角も知らず知らずのうちに

上がっていくのでした。

 

 

 

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6/29 オートマ免許

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オートマ免許

担当の列の収穫が終わって顔を上げると、

ほかのメンバーも大体は終わっており

一斉に収穫をはじめた列の前側にあった赤い車は

ニアの運転で収穫の終わった列の後ろ側へと

移動させられているところでした。

 

畑を見渡すと、

自分が担当した黄色いズッキーニの列が2つ、

となりには緑のズッキーニの列が2つ、

さらにその隣には丸い緑のズッキーニの列が2つ

と、計6列の構成です。

 

収穫したズッキーニを入れたキステは

全部で10数個。

色と形で分け、全てを車に積み込むと

わたしとアドリアーナが乗ってきた

車のトランクあたりのスペースは埋まり、

助手席にルーカスが乗り込むと

畑のでこぼこ道を進みだします。

 

「さて。」

とアドリアーナが歩き出したので

わたしも彼女の後を追い、

横に並んで歩き始めました。

 

と、畑から道に出た途端

 

あれ?わたしたちの家の屋根が見える。

 

そう、ズッキーニ畑は家のすぐ裏手だったのです。

 

「ズッキーニは収穫量が多いし、

 運ぶの大変でしょ?

 だから車だったんだよ。

 itoはマニュアル車運転できるの?」

 

アドリアーナにたずねられ

「ううん、日本でオートマの免許取ったんだ。」

と正直に話します。

 

「そっか。オートマ限定で取るなんて珍しいね!

 こっちじゃマニュアルが普通だよ。

 わたしもたまにあの車は運転してるんだ。

 あ、ニアは確か無免許だったと思う。笑

 私有地だから大丈夫なんだよね。」

彼女の説明に、

ナンバープレートの外れた車の背中を思い出して

納得しました。

 

話しながら倉庫の前に着くと、

ルーカスとニアが2人でせっせと

キステを車から降ろしています。

わたしもそこに参戦し、

重い…とは感じても口には出さず

作業を手伝いました。

 

タグを作ったアドリアーナがやってきて

みんなで全てのキステにタグを差し込み、

午前中にボーネンを入れた保管庫へと移動させ

午後の作業は終了です。

 

時計を見ると午後4時。

1時間ほどの作業に心が軽くなりました。

 

「みんな!わかってるな?

 …今夜はレストランでスペシャルディナーだ。

 時間になったらこっちに降りてくるから

 支度しとくんだぞ~。」

マルクスが順番にウーファーの顔を見ながら

したり顔で告げます。

 

ディナーか。

なんかよくわかんないけど楽しみ♪

 

るんるんなわたしは

1日の作業汚れを落とそうと

さっそくシャワーを浴びに

家の玄関へと向かいました。

 

 

 

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6/29 収穫しづらいズッキーニ

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収穫しづらいズッキーニ

畑、そんなに遠いのかな…

 

黙って車の振動に身を任せていると

ものの数分で動きが止まりました。

「さ、降りよ降りよ!」

車内の蒸し暑さにじっと耐えていたアドリアーナが

勢いよくトランクの扉を開け飛び降ります。

 

わたしもあとに続き、

見よう見まねでキステをどんどん外に放り出しました。

 

「じゃあitoは一番簡単な黄色いやつの収穫。」

ニアが向かって右2列の畝を

バイバルナイフで示しました。

「こうやって葉をどけると

 下に隠れてたりするから、

 見逃さないようにね。」

ルーカスが実際に緑のズッキーニを収穫しながら

コツを教えてくれます。

「おっと、これはなかなかの大物だね。

 野球できちゃうや。」

バットのように振りかざしたそれは確かに巨大で

マルクスにまた注意されるな~。」

と横でアドリアーナが顔をしかめました。

 

「よし、スタート!」

ニアの声でそれぞれが持ち場の列に入っていきます。

 

いてて!

よく見るとズッキーニの葉には

細かな棘があり、根元から生えている実を収穫するには

腕へのその刺激に耐えなければなりませんでした。

 

こんなに取り辛い場所に実がなるなんて…

 

毎日が発見です。

(と、当時の日記にはありますが

 これはまだ畑仕事初日の出来事です。笑)

 

 

 

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6/29 ホットなメキシカンガールと赤い車

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ホットなメキシカンガールと赤い車

玄関を出ると、既に準備の整ったアドリアーナが

ベンチに腰掛けています。

 

向かいにある倉庫では

研修生チームのソフィアとリディアが

トマトを袋に詰めていました。

 

「わたしたちはズッキーニだね。」

 

ぴったりとしたタンクトップに、

だぼっとした作業パンツの先を

少し汚れたワークブーツに入れて

癖毛で広がる髪をひとつにまとめる彼女の姿は

凛として様になっています。

日に焼けた二の腕を見ながら

メキシコかっこいいな、と

彼女に対するわたしの印象は

国ごと決まったのでした。

 

 

「あの赤い車で行くよ。」

ナンバープレートの外れたおんぼろのワンボックスを指し

キステを集めると次々にトランクに積み込みます。

「最初にウリにナイフ贈ってもらったでしょ?

 あれ使うから、ポケットに入れて車に乗って。」

 

慌てて部屋に戻って

昨日ウリにもらったサバイバルナイフを

作業着のポケットにしまい

赤い車の元へ走ります。

 

いつのまにかニアが運転席に、

ルーカスが助手席に座っていて

「わたしたちは後ろだよー。」

とトランク側から顔をのぞかせたアドリアーナが

わたしを呼びました。

 

 

 

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6/29 ファーマーズランチ@社員食堂

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ファーマーズランチ@社員食堂

着替えを終え、自転車に乗って着いた先は

家具のデザインを行う会社のオフィスビルでした。

 

ビジネス内容もあってか、

主張しすぎないけれどカラフルな配色の壁に

光がたっぷりと入る開放感のある玄関、

センスのある建物です。

 

「うちはここの食堂に野菜を卸しているんだよ。

 いわば取引先だね。

 おっと、そのエレベーターはお客さん用だ。

 わたしたちは階段を使うんだよ。

 運動にもなるしね。」

ウインクが付きそうな弾んだ声音で

マルクスの説明が入ります。

「さ、食堂は一番上の階さ。登った登った!」

 

無駄のない引き締まった足を大きく踏み出し

軽々と階段を登る背中につられ付いていくと

あっという間に食堂のある最上階に着きました。

 

エレベーターとトイレを横切り

ホールのようなスペースへと進みます。

 

『今日のオススメ』と書かれた黒板のうしろには

室内にも関わらず植樹されている数本の木々と

ガラス張りの壁から見渡せる開けた景色、

どこからともなく聞こえる食器の触れ合う音と

トマトソースのにおいが相まって

人をなんとなく高揚した、幸福な気持ちにさせます。

 

ホール中央にはビュッフェ形式のサラダバーがあり、

品目ごとにトレーが並んだカウンターの向こう側では

シェフが立ってにこやかにこちらを見ていました。

 

「ito。こっち!」

先に来ていた研修生チームのリディアが

声をかけてくれます。

「まずは前菜からよ。

 先にサラダを食べるって決まってるの。

 行こう。」

座るや否やふたたび席を立ち

サラダバーへと向かいました。

 

バーには確かに、今朝収穫したレタスや

ハウスで目にしたきゅうりやトマトが

ハーブと和えられ、

オリーブオイルがかけられ、

それぞれにおめかしをして並んでいました。

 

各自で好きなものを好きなだけ盛り、

カトラリーを添えて席へ戻ります。

「グーテンアペティート。」

両の手を顔の前で合わせて

小声で「いただきます。」と

日本語でも付け足しました。

 

「…イトダキマス?」

アドリアーナの問いに

「イタダキマス。日本語の

 グーテンアペティートだよ。」

と説明しながら

生命力あふれる艶の野菜たちを

フォークで刺し、口に運びます。

 

ふと周りを見渡すと、

サラダのお皿が空になっているメンバーも。

 

お昼ごはんってこのサラダのことなのかな…

 

もう少しとってこればよかった、と思いながら

フォークを置いてみんなにならい

水を飲んで落ち着きました。

 

「じゃ、いこうか。」

ウリがテーブルに手を着いて立ち上がると

我先にとほかのメンバーも先を立ちます。

「今日はなにかな~♪」

とにこやかな彼女が向かった先は

シェフのいるカウンターでした。

 

あ、これからがメインなわけね!

 

わたしも嬉々として席を立ち、

みんなのあとに続きます。

 

カウンターに用意されていたのは

ミートボールのトマトソースがけと

きのこの香草チーズ焼きでした。

「君はお肉?」

シェフが前の人のお皿に盛り付けながら

わたしにたずねました。

「ううん、ノンお肉。」

ベジタリアンが多いここの環境では

一度わたしもベジタリアンになってみよう、と

前の人にならって

きのこのチーズ焼きをよそってもらいます。

 

チーズがたっぷりのメインディッシュは

予想以上にボリュ―ミーで

食べ終わる頃には十分満足できました。

 

「午後はズッキーニをお願いしたい。

 昼休憩はこのあと3時まで。

 よろしくな!」

しばしの歓談のあと

マルクスウーファーチームにそう告げ

ランチはお開きになりました。

 

 

 

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